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株式会社花安(新潟県新発田市)

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株式会社花安
(新潟県新発田市)

【写真】渡辺さん、星さん株式会社花安は1598年(慶長3年)より“花屋安兵衛”という屋号で代々続いており、1989年(平成元年)に法人設立。10拠点からなる家族葬ホールや相談サロンなどの葬儀事業を中心に、酒類製造販売や飲食事業、不動産買取・仲介事業など地域に根ざした事業を幅広く行っている。
株式会社花安の従業員数は94名(2025年10月現在)。
今回は、代表取締役の渡辺安之さん、管理本部サービス業務課長の星小百合さんからお話を伺った。

故人とのお別れに向き合う日々が社員の働き方を考えるきっかけとなり、24時間365日稼働という葬祭業の特性からくる過重労働を改善する取組みの推進につながった。

まず、健康経営に取り組むこととなったきっかけについてお話を伺った。

24時間365日稼働の葬祭業の特性ゆえの働きづらさを解消し、人員確保を図るため、健康経営の取組みを始めました 「当社は400年以上前に加賀藩(現在の石川県)大聖寺から初代の御殿様である溝口秀勝公と一緒にやってきた“花屋の安兵衛”から始まり、戦後からは代々葬祭業を営んでいる会社です。葬祭業の特性上、24時間365日稼働するのが当然という業務体制が定着しており、有給休暇の取得も進んでおらず、時間外労働が恒常化している状態が続いていました。」

「こうした働き方の中で人員不足の状態も続いていたため、まずはとにかく人員の確保を進めたいと考え、採用活動の強みにしようと2019年に“健康経営優良法人”の申請をしました。しかし、当時は残念ながら認定の取得には至りませんでした。改めて“健康経営優良法人”の認定取得を目指すためには、就業環境を本質的に見直す必要があることを実感し、以降様々な取組みを進めてきました。」

「明日死ぬ」としたらを起点にすることで、一日一日を“楽しく生きる”ために会社がどうあるべきかが自ずと見えてきました 「私(渡辺さん)自身の意識の変化もありました。代々続く“花安”という会社を16代目として引き継ぎ、故人とのお別れに立ち合う葬祭業に携わる中で、自分たちは脈々と続く過去の縁に生かされているということ、また私たちの仕事である葬儀は、“亡くなった人と生きていく人をつなげる活動”であることに思い至りました。誰もが直面する“死”を意識するようになったことで、もし『明日死ぬ』としたら今日が良い一日だったと感じられるか、つまり今感じている感情が人生の質になるのだということに気づきました。そして、そのためにはとにかく一日一日を“楽しく生きる”ことが大切だと強く思うようになりました。」

「私たちは、人生の約3分の1を働くことに費やしています。業務負荷が高く、ストレスがたまる環境では、当然働きたくないですし、時間の無駄とすら思います。就業環境を改善し、仕事が面白いと思える環境を作ることができれば、当社で働くことによって“楽しく生きる”が実現できると考えました。すると、休日の拡充、給与水準の引き上げ、社内の人間関係の改善など、取り組むべき項目が自ずと見えてきました。」

「そして、社員が楽しく働き続けるためには、当社自体の発展と同時に、当社のあるこの新発田の街の経済の活性化も必要不可欠であると考えています。そのため、地域の一企業として新規事業へ挑戦するなど、多角的な活動の推進にも力を入れています。」

就業環境の本質的な改善のため、業務効率化、休日の拡充、新しい評価制度の導入、コミュニケーション活性化のための仕組みなど、幅広い取組みを進めている。

次に、“楽しく生きる”を実現するために実施した、就業環境改善のための様々な取組みについてお話を伺った。

DX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進、休日拡充のための工夫などにより、時間外労働時間の削減、有給取得率の増加など大きく効果が表れています 「まず、2018年頃から、それまですべて紙で管理していた顧客情報や資料などを一気にデータ化しました。これにより、パソコンやスマートフォンなどでデータを確認できるようになり、紙の資料を確認するために現場から会社に戻ってまた現場に行くといった移動時間がなくなりました。」

「また、以前は、葬儀を受けるところから執り行うところまですべての流れを1人で担当する体制になっていたため、その間は休日を取得するのが難しい状態でした。しかし、DX化の推進によって情報共有がしやすくなったことから分業も実現することができ、休暇を取得しやすい業務体制を整えることもできました。」

「年間休日は5年ほど前から1年毎に2日ずつ増やす取組みを進めています。以前は86日でしたが、現在(2025年)は96日となっています。」

「有給取得率も、2020年当時は36%と低い状態であり、先輩や上司が取得をしていないため取得しづらいという風潮が長く続いていました。こうした状況を改善するため、管理職以上の社員に対して、有給取得率が低い職場は採用活動で不利に働く可能性が高いことや、人員確保ができず業務過多の状況から抜け出せないという現状を説明し、理解を促し、有給休暇の取得を推進しました。さらに、一時的に評価項目の中に、有給休暇を取得するとポイントが付与される、つまり、有給休暇を取得しないと結果的に評価が下がり給与にも影響がある仕組みを導入したところ、取得率が劇的に上がり、2024年には80%にまで上昇しました。現在では有給休暇を取得することが当たり前の雰囲気ができています。」

フリーアドレスやチームメンバーによる採用面接など、職場の人間関係を円滑にする取組みも積極的に行っています 「社内のコミュニケーション活性化を目的として、2部署で5人以上が参加する企画に対しては、会社から補助を出すという仕組みも運用しています。月に1回開催している“花安サービス食堂”も、社員発案で始まりました。社員が調理を行い、みんなで食事を楽しむ企画で、会社の裏で野菜を育てたり、減塩メニューをテーマにしたりと、社員が楽しみながら主体的に取り組んでいます。」

「オフィス内はフリーアドレスとしており、打ち合わせなども空いているスペースで気軽に行えるようにするなど、いろいろな人とコミュニケーションをとりやすい環境を整備しています。また、採用面接は採用部門のチームメンバーのみで行っています。実際に一緒に働くメンバーが面接をする方が、人間関係も良好に保つことができ、業務も円滑に進むことが分かったので、今は私(渡辺さん)は採用面接には関わっていません。」

「また、良いアウトプットのためには、上質なインプットが大切だと考えており、社内研修も多く実施しているほか、社外研修への参加も奨励しています。社内研修では、社長塾という研修を私(渡辺さん)が月1回、年12回実施しています。都合により参加できない場合もあるため、同じプログラムを毎年実施し、いつでも受講できるようにしています。毎月の研修を継続するのは大変ですが、社員一人ひとりと関われる機会にもなっており、私にとっても良い機会です。人間関係や上長との関係の悩みも多いため、研修の中では、一人ひとりに特性があることも伝えており、ルーティンワークが得意なタイプや、企画立案が得意なタイプなど、適性に合わせた業務配置を考える工夫なども話しています。」

「こうした取組みによって、10年前と比べて社員の様子も大きく変化したと感じています。多くの社員が、時間を意識し、すき間時間を活用しながら、他チームのメンバーとも連携を図り、自発的に業務を進める風土ができてきていると思います。」

ストレスチェックは、実施義務のある本社だけでなく、全事業所、パート社員を含む全社員を対象に実施し、集団分析結果をもとに積極的にケアを行っている。

最後に、ストレスチェック実施の状況と、社員のメンタルヘルスケアの取組みについて伺った。

ストレスチェックの集団分析結果は丁寧に確認し、積極的に介入するようにしています 「ストレスチェックは、社員数が増えてきた5年程前から実施しています。実施義務があるのは本社のみですが、社員一人ひとりのストレスへの気づきを目的として、他の事業所、全社員を対象にストレスチェックを実施しています。外部サービスを活用しオンラインで実施しており、集団分析結果とレポートをもらっています。心配な結果が出てきた部署については、若手中心の組織構成になっていなかったか、業務過多になっていなかったか、など丁寧に確認し、介入が必要な場合は、管理職や経営層など状況に応じてメンバーを集めて対応しています。」

1on1の面談を月1回実施しており、話しやすい関係性ができているため、人間関係の課題などを社内で早めに把握し対処できています 「産業医契約もしており、外部相談窓口も設置していますが、当社では1on1の面談を月に1回実施していることもあり、外部への相談につながる前に、上司やチーム内で課題を把握することができ、早期の対処につながっていることが多いです。」

「1on1の面談は、主に目標設定・評価に関するものではありますが、毎月実施しています。関係性ができているため、目標や評価の内容にとどまらず、幅広い内容について相談できる機会となっています。面談は必要に応じて1on1もしくは1on2(上長側が2人)で実施し、社員と上長との相性が良くない場合はすぐに上長側の担当を変えることにしています。研修でも、社員それぞれに特性やタイプがあり、各個人の問題ではなく相性の問題であることを伝えており、その意識が浸透しているため、担当を変えたことによって問題が起こることもありません。新入社員は、執行役員が相談窓口となり毎月面談を実施しています。面談がうまく機能するために、相談時間を決めて長引かせないことや、雑談を盛り込むこと、聴くことに注力すること、にも気を付けています。相談しやすい環境が整っていることで、早めに課題を把握することができ、外部への相談の必要がなく社内で解決できることがほとんどです。」

「このように幅広い取組みを続けてきたことで、2024年には“健康経営優良法人(中小規模法人)”の認定を受けることができ、2025年は“ブライト500”の認定も受けることができました。人間関係が良好な会社は業績も好調になっていくと考えています。職場のストレス要因は人間関係であることがほとんどです。ストレスや課題を相談できる仕組みづくりができてきたからこそ、当社は社員一人ひとりが楽しく活躍できる職場の風土を築くことができたのではないかと考えています。」

【取材協力】株式会社花安
(2025年12月掲載)